2016夏 93番地
道は緩い上り坂、その家の玄関で行き止まりになっています。
50年前の写真です。
寄棟屋根の一部を切り落とした兜造に、小さな瓦屋根が寄り添っています。
屋根裏に蚕部屋をもつ養蚕農家。
玄関の前に手押しポンプ、廊下の外に手水鉢、風呂には山の水を引いていました。
扉を開けたところは土間で、居間には囲炉裏が切ってあります。
廊下の内側は障子、外側は板戸。母屋にガラスはありません。
50年前、ここに老女が住んでいました。
ヤギを飼って暮らしていました。
8年前の写真です。
手押しポンプは電動ポンプに替わっています。
そして動きを止めています。
住む人はなく、訪れる人もめったにありません。
道は花びらに埋まっていました。
久しぶりに行ってみました。
道がなくなっていました。
家はありました。
夏草の匂いに包まれていました。
とてもいい匂い。
草は地面と、屋根に生えています。
築106年、木造草葺平屋建(登記上)。
これ、放っておいていいんですか?
所有者は「壊すのも手間だし、そのうち土に還る」
行政の指導が入りそうなことを言います。
私の父です、すみません。