歴代が通う湯治場
仕事の面接を終えて戻ると、家の様子が変わっていました。
不思議な事がおきていました。
窓にカーテンが吊ってあります。居間に炬燵が作ってあります。炬燵の上にお茶の道具とおにぎりが並んでいます。
台所にふきん。洗面所にタオル。トイレにトイレットペーパー。
玄関にはポストと表札。表札はガムテープとマジックインキのですけど。
この魔法を使った人たちは、疲れて炬燵で寝ています。
疲れますよ、これは。
私はといえば、鼻水が止まりません。鼻水を流しながら面接を受けたので、落ちたときの言い訳は万全です。
お風呂に入たいと思いました。
ボイラーを修理してお湯が出るようになったけど、お風呂は沸かせません。修理代をケチったからです。
お風呂に入りたいと思います。
3人がそれぞれ、近くのお風呂を検索します。WindowsとAndroidとiOSが同じ答えを出しました。
町中のスーパー銭湯まで15分。山間の湯治場まで15分。
「うちの人たちは歴代、この湯治場に通ってきた」年長者の発言で、行き先決定。今から3代で行って歴代度を更新します。
良い景色です。
温泉には地下のマグマを熱源とするもの(火山性温泉)や、高温岩体を熱源とするもの(非火山性温泉)や、よくわからない熱源のものがあります。
古くからある温泉は「山の動物が傷を癒やしているのを猟師が見つけた」的な、自然に湧き出たものがほとんどです。
が、地球の深部は熱いので、地下水には温度勾配というものがあり、だいたい100m掘れば3 ℃上がる勘定で、近くに山があろうがなかろうが、深く掘れば、そこに地下水があれば、温泉が出ます。近年のボーリング技術の進歩と共に、あちこちに温泉が出現しました。
が、私のものさしでは、渓流のそばにあるのが正しい温泉です。理由は、渓流が好きだからです。
ひなびた温泉です。玄関を入ると、「裏の畑で採れた」的な芋や菜っ葉が並べてあります。タオルの貸出無料、信用金庫の名前が入っています。93番地の家を建てた人が通ったここは、火山性の自噴泉。みつけたのは農夫で、傷を癒やしていたのは雉だそうです。
ところで、入湯料300円。に驚いたのは私だけで、同行の地元民によると、「この辺の温泉はそんなもん」だそうです。
これは毎日通ってしまいそうですね。鼻水もぴたり止まりました。
正しい温泉につかって疲れを癒やして、姪は帰って行きました。仕事休んで来ちゃったんですよ、この子。またいらっしゃい、温泉おごるから。
父はもう一晩泊まります。