みんな、黙って置いて行くんです
朝、玄関の前に置いてありました。
そういえば、明け方犬が騒いでいたけど、その時、誰かが置いて行ったんですね。
誰が?
みんな、黙って置いて行くんですよ。
ある日、インターロッキングブロックが置いてありました。
インターロッキングブロック、欲しいと思っていました。テラスの前に敷きたいです。
外構材としてはちょっと贅沢です。施工費がお高め。
でも、下地をきちんとつくってもらえば、敷き込むのに技術はいりません。ただ手間がかかるだけ。
なので、時間ができたらちょっとずつ、自分で敷こうと思っていました。
それが置いてありました。48番地の隅っこに。
別の日、薪ストーブが置いてありました。
屋外用の薪ストーブ、欲しいと思っていました。
その辺に薪がいっぱいあります。全然片付かなくて投げてあります。
今もいっぱいあるけど、枝打ちをしたり、山に手を入れればもっと増えます。
山で暮らすなら、こういうのがあるといいです。ご飯も炊けるし。
と思っていました。
そしたら置いてありました。93番地の前庭に。なんと、お鍋も一緒に。
インターロッキングブロックの人は判りました。
私が欲しがってるのを知ってる人、のうち、搬入手段を持っている人。はあの人です。
土木屋さんに電話しました。
「今日の現場で処分を頼まれて。ちょうどいいかと思って持って行きました。要らないなら引き上げます」
「要ります。使わせてもらいます。ありがとうございます」
薪ストーブの人は判りました。
私が欲しがってるのを知ってる人、のうち、この場所を知ってる人。はあの人です。
廃屋の片付け(まだ終わらない)の人に電話しました。
「片付けをしていたら出てきました。お使いになるなら据え付けます。場所はどこがいいですか?」
「使います。場所はここがいいです。据え付けお願いします」
ということがありました。
ところで、今朝の物件。
どうやらキャラボクです。漢字で伽羅木。
これを玄関に置いていった人は?
まあ、たぶんあの人です。
115番地に一群れのツツジがあります。昔、93番地の家の近くに咲いていたものです。
昔、古い家の近くにたくさんのツツジがありました。祖母が植えました。
古い家の近くの山を、赤、白、ピンク、たくさんのツツジが埋めていたそうです。
祖母が亡くなった後、そして、その後に住んだ大叔父が倒れた後、山からツツジが消えました。
ツツジは樹形を変えやすいので、「盗みやすい木」なのだそうです。
ですが、115番地。
祖母のツツジはここで咲きます。白いのと、ピンクのと、が毎年たくさん。
見る人がいなくなった山で、めぼしい木がごっそり持ち去られた後で、捨て置かれた株を移して、これまで面倒を見てくれた人がいます。
115番地の隣に住む雑貨屋さんです。
「これはカツコさんの木だよ」
聞くまで知りませんでした。祖母のツツジがここで生き残っていたことを、父も知らなかったそうです。
「そして、これがハルキチさんの木」
雑貨屋さんの庭には大きな五葉松があります。93番地にあった幼木を、大叔父が持ってきたそうです。
大叔父が亡くなって20年、面倒をみてくれていたのでした。
その五葉松の種から育てた小さな鉢も並んでいます。20年経っても小さな鉢。
それを一鉢くださいと、お願いしてあります。私の家の新築祝いに、ぜひ。
霧雨の朝、薄明の中、玄関の前に伽羅木を置いて行った人、
が誰かは判りません。これから聞いて回ります。
でも、
たぶんあの人です。
あの人ならいいな、と思うのです。