藪の中に住むことの、予想外のいろいろ
最近
仕事が終わって帰宅して、暗くなるまでの時間、テラスに座ってお茶を飲みます。
お茶を飲みながら本を読みます。
ヒグラシの声を聞きながら。
というのが、最近の私の日課なのですが。
先日、盛大に蚊に刺されました。
別に不思議はありません。この家の周り、藪ですから。
でも、普段は刺されないんですよ。
不思議といえば、その方が不思議。
こういう場所なので、キャンプ場のバンガロー並みの虫対策が必須と思っていました。
それが、意外に少ないのです。
理由の一つは照明です。
この家の照明は全てLEDで、虫を誘う紫外線を出しません。
これは特に、太い触覚を持つ、鱗粉を散らす虫に有効です。
あと、硬い殻を持つ、あちこちぶつかって音を立てる虫に有効です。
スズメバチにも有効らしいけど、スズメバチは昼行性なので関係ありません。
とにかく、LEDの効果はてきめん。
ですが、去年より今年の方が少ないのです。
去年は蚊取り線香を焚きましたから。電撃ラケットも活躍しましたから。
電撃ラケット、喜んで振り回す人がいるんです。うちに来る人だいたいみんな。
でも、今年は出番がないのです。
違いといえば、去年は家の周りは裸地で、
今年は藪です。
この草の大半はイネ科です。せっせと「先端刈り」をした結果そうなりました。
ヨモギとタイムも少しあります。ヨモギとタイムには虫除け効果があります。.
そのためでしょうか?
判りません。
藪に小鳥がいます。
細い草の茎に留まって、すっと飛び立つ小さな鳥。
がたくさんいます。
そのためでしょうか?
判りません。
鳥の種類も判りません。
判らなくても、なんでも、蚊に刺されないのは嬉しいことで、夕暮れにのんびりデッキで本を読めるのは嬉しいです。
先週
その日もデッキでのんびり本を読んでいました。
そこに、音が聞こえてきたんです。
チュイン チュイン
それが、近づいて来るのです。
チュイン チュイン
何の音?
目を上げると、そこに、作業着を着た男性がいました。刈払機を振るっていました。
チュイン チュイン
刈払機は普通、かなりけたたましいものです。
私の刈払機は2ストロークのエンジン式で、これはかなりけたたましいです。
この辺の皆さんが持っているのも、だいたいが2ストのエンジン式で、けたたましい音がします。
たまに4ストのエンジン式のもありますが、これもちゃんとけたたましいです。
でも、その人の刈払機は静かで、傍に来るまで気づきませんでした。
ここです。
この、車が停まっているところ。
は、奥に見える赤い屋根の廃屋の敷地です。
土地の形状は道ですが、市役所が道と認めてくれないので、私は家を建てるのに苦労しました。
接道のない土地には家を建てることができないので、既存家屋の建て替えもできないので、大変苦労したのです。
という、いわくのある場所。
を、写真の右の方から、その人は歩いてきたのです。草を刈りながら。
私は慌てて家に駆け込みました。急いで着るものを着ました。
すごい恰好をしていたからです。
仕事が終わって帰宅して、ジャケットとスカートとストッキングを脱ぎ捨てて、の格好。
こういう場所ですもん、人が通ることは想定していません。
サイレンサー付きの刈払機を振るう人とか、まさか。
実は、この「道」を通る人がいます。
ご近所の農家のご隠居さん。が毎朝ここを通って麓の神社に通うのです。
もうずっと以前から、その人はそうして来たのです。
私が生まれた頃からずっと。
その頃はまだ、赤い屋根の家に住む人がいて、毎朝声をかけて通っていたようです。
その家が廃屋になってからは、挨拶を交わす人もなく、同じ道を通って来たのです。
ところで、私が家を建てた後、その人はルートを変えました。
他人の家の敷地ではなく、公道を通るルート。距離は5倍くらいになります。
その公道で、私は何度かその人を見ました。ポリテクセンターに通っていた冬です。
夜明け前に家を出て、凍った車に乗り込んで、ヒーターをガンガンかけて発進します。凍ったアスファルトをタイヤが踏むと、しゃりしゃり霜は溶け、でもまたすぐに氷結します。
という道を、杖をつきながら、ゆっくり歩く人がいたのです。
うっかりブレーキを踏むとハンドルを取られそうな、コーナーと勾配がセットになった道です。
私は慎重に車を寄せ、「どうぞ、うちの道を通ってください」と言いました。
というわけで、杖をついたご老人が毎朝ここを通ります。
ところで、目の前で刈払機を振っている、この人は誰?
「失礼ですが?」
声をかけると、礼儀正しく名乗ってくれました。
「Iです」
ああIさん、知ってます。いえ、知りません。
私が知っているのは町会長のIさんと分会長のIさん。あと、去年の町会長のIさんと去年の分会長のIさん。毎朝通るご隠居さんもIさんです。
「どちらのIさんですか?」
毎朝ここを通るIさんの息子さん、でした。
「いつもお世話になっています。母に草を刈るように言われました」
なるほど。疑問が一つ解消しました。
でも、もう一つ気になることがあります。
「その刈払機はモーター式ですか?使い心地はどうですか?エンジン式と較べて?」
そして私も手袋をはめ、レーキを手に取ります。
何日も前に刈った草が庭一面に放置してあります。
のんびり本とか読んでる場合じゃなかった。