木を植える人
夏の日に撮った写真です。
スギは20年から30年で成長するそうです。
樹高の伸びる時期は光合成も活発です。
針葉樹の二酸化炭素吸収量が多いのは、葉を落とさないから。
それにしてもスギ、優秀ですね。
成長期が過ぎ、成熟期に入ると、花をつけ、実を結びます。
成長期と成熟期――この辺の数字は人の時間と似てますね。
木々の時間はずっと先、何百年、何千年と続きますけど。
昭和の一時期、あちこちに人工林ができました。
戦争で疲弊した国土を立て直すため、多くの木が植えられました。
何十年か後、木々は国を支える資源となるはずでした。
植えられたのはスギ、ヒノキ、マツ。
人々の住む家や町を作るための建材です。
今、成熟期を迎えた人工林の多くが放置されています。
切って、売っても、まるで採算が取れないためです。
切るために植えられた木が、切られずに放置されている。
ために、問題が起きています。
苗木は間引きを前提に密植します。
まっすぐ育てるために密植し、ある程度育ったら間伐し、残った木が育つ余地をつくります。
充分に育ったら収穫し、他の草木が育つ場所をつくります。
放っておくと日照のない、下草の育たない、土壌保持力の弱い林になリます。
樹種も樹齢も均一な、生態系の単純な林は、放っておいても自然林にはなりません。
そして花粉症。
成熟期の人工林は大量の花粉を飛ばします。
若い木は花粉をつくりません。
樹高の伸びが止み、二酸化炭素の吸収量も落ちる成熟期、木々は花粉をつくります。
スギの場合、30年くらいから。ちょうど収穫期にあたります。
全国で花粉症が急増しているのは、収穫期を過ぎた人工林が放置されているためです。
ここにスギの林があることを、写真を撮ったその日まで、私は知らずにいました。
今、私は、このスギを大事に切りたいと思っています。
木を植える人は、誰のために植えるのでしょう?
このスギを植えたのは祖父、だそうです。
孫と一緒に植えたそうです。
祖父には3人の孫がいました。
植えた木が根付くころ、祖父は亡くなりました。
木が収穫期に入るころ、一緒に植えた孫が亡くなりました。
私の兄です。