農地法第3条[農地取得要件]について考える
この土地、売っても幾らにもならないと書きました。昨年度固定資産税評価額は238,524円。学生の冬休み春休みバイトで買える金額です。
買えませんけど。
ここは農地です。普通の学生には買えません。
私にも買えません。
農地法第3条
農地の売買・譲渡・貸借には農地法第3条に基づく許可が必要です。
農地法第3条による農地取得の要件として、
・取得農地を含むすべてを耕作すること
・取得後の農作業に常時従事すること
・最低経営規模(北海道2ha,都府県50a)以上になること
・取得農地を効率的に利用できる区域に住居を有していること
が定められています。
誰かがこの土地を買いたいと言ってきても、要件に合う人でなければ売れません。要件に合う人、つまり、
「50a以上の農地」を、「すべて」「常時」耕作するつもりがあって、「近くに住居を持つ」人は、まず自分の農地を持っています。たぶん売るほど持っています。この土地を買いたいとか言ってきません。
さて、ここで問題です。
農地を買い受ける、譲り受ける、借り受けることができるのは、最低経営規模以上の農地をすべて、常時、耕作できる人に限られます。
のに、なぜ、耕作放棄地があるのでしょう?
httpwww5.cao.go.jpkeizai-shimonkaigispecial2030tf281114shiryou1_2.pdf
このグラフ、黄色部分のラベルがおかしいです。「その他」って。
いえ、意味はわかります。
「土地持ち非農家」に対する「その他」だから、「土地持ちじゃない」または「非農家じゃない」のどちらかで、耕作放棄地を持っているのだから、「土地持ちじゃない」じゃなくて「非農家じゃない」の方、つまり「土地持ち農家」ということですね。
長いつっこみをしてしまいました。
要するに、黄色い部分は所有農地のすべては耕作していない農家。
「この齢まで畑やってきたけど、最近は体もきついし、後継ぎいないし、今は半分しか耕してないよ」のパターン。
でもって、赤い部分は土地持ち非農家。売買によらず、譲渡によらず、農地を所有する人は、
「田舎の土地を相続したんで、売ってマンションのローンに充てようと思ったけど、売れないんだな、農地って」のパターン。
農地法が最低経営規模を決めているのは、農地を細切れにしたくないからです。なるべく集約して、大型耕作機械で効率よく耕作してほしいからです。
こんなふうに。
日本の農地がどれだけ小さいかというと、こんな感じです。
でもこれ、比べちゃいけないかもですよ。
オーストラリアの3,423.8haって、千代田区・中央区・文京区を合わせたより大きいです。土地の所有者が知らないうちに、1万人くらい住み着いて町を作ってた、なんてこと、起きそうな広さです。それを1戸で耕作とか、びっくりです。
びっくりついでに、世界地理、いきます。
いろんな国の川の勾配のグラフです。
日本の川、世界水準を超えています。
日本の国土が世界水準を超えているからです。
こういう国土で、耕作機械のない昔から、田や畑が作られてきたんです。
ここ(右下)は古くからある田です。
うちの田ではありませんが、この田の記録がうちにあります。
おそらくは南北朝の時代に拓かれた田で、延宝時代の検地帳の評価は「下田」「下々田」となっています。
日本では、ろくに収穫のない土地を、手が及ぶ限り拓いて田にした時代がありました。その田が、500年たった今も、地目は田のまま残っています。
耕作はされていません
さて、こちらの写真のタイトルは「日本の原風景を訪ねて」。
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1106/photoessay.html
農地の大規模集約化、高度機械化を図りながら、里山の原風景も守りたい。農林水産省も苦しいです。
ところで、最低経営規模(北海道2ha,都府県50a)には緩和の特例があって、判りやすい資料を作ってくれた宮城県七ヶ浜町は10aです。
島以外では、空き家とセットで1aから農地が買える「空き家付き農地バンク」制度があります。平成24年、島根県雲南市が始めた取り組みで、最近各地に広がってきています。
これ、ちょっと買ってみたいって思いません?