廃車を撤去した話
2016年夏 93番地の道はなくなっていました。
8年ぶりに来た私は、坂の途中で車を降り、藪をかきわけて歩きました。
そして、たどり着いたところには、こんなものがありました。
これ、放っておいていいんですか?
93番地の土地家屋を貸した人は、
「契約が終わったら、原状に復帰してもらう」と言います。
原状復帰?どうやって?
運び出すための道がありません。
契約が終わったら?
でも、この国には借地借家法という法律があるんです。
心配です。
2016年秋 93番地に道ができました。
いい道でしょう?春になったら筍が収穫できます。収穫しないと道がなくなります。
2016年冬 近くで工事がありました。
工事車両をうちの駐車場に置きます。通路にうちの敷地を使います。
この辺で工事があるときは、その辺の空いてる場所を使うんです。どうぞ使ってください。
私は仕事を休んで見に行きました。立ち会いとかじゃないです。その頃仕事に嫌気がさしていたんです。だから行きました。「働く車がいっぱい!見なくちゃ!」つまり、野次馬です。
工事車両は93番地を通ります。93番地には廃車があります。工事の現場監督が腕組みをして言いました。
「この車、どうするんです?」
土地を貸した人は、期限が来たら撤去してもらうと言っています。
それが簡単にいかないだろうと、野次馬は心配しています。
「これ、動かすの、難しいですよね?」
タイヤが地面にめり込んでいます。荷台に木が生えています。それでも、廃車の持ち主は「ちゃんと動く車です」って言うんです。
「動かしたいなら」現場監督が言いました。「うちのショベルで牽引できますよ」
うちのショベル!
なんと頼もしい姿でしょう。
そのうえ、うちのブル!と、うちのダンプ!も、手伝ってくださると。
その場で電話しましたよ、廃車の人に。「すぐに来てください。ご相談があります」
そして、どかしてもらうことになりました。5台の廃車を。
物を動かすには、動かす先が必要です。場所をつくります。
目の前に空き地があります。空き地の真ん中に芋が生えてます。一畝だけ。
隣にまとまった畑があって、大根と白菜が植えてあって、なぜか空き地を挟んで芋が生えてるんです。一畝だけ。
地目は雑種地です。
畑の人に、「ここを整地したいので、明け渡してもらえますか」と頼みました。「まだ収穫が終わってない」断られました。
それはそうです。何年も耕してきた場所です。明日立ち退けとか、そんな話聞けません。
でも、工事のスケジュールがあるんです。それと、私の休暇の都合が。
5台の廃車を駐車場に置くことはできます。先日まで近くの法人に貸してあった駐車場が、今は空いています。だから工事に使っているんです。そこに廃車を置くことはできます。最初はそのつもりでした。でも、
なんか違う。
駐車場は公道に面していて、人通りがあります。3軒の住宅に接しています。芋の畑は敷地の奥にひっそりあります。廃車を置くならこっちです。
考えました。
畑の人には息子さんがいて、息子さんは中古車ディーラーをしていて、車を置く場所を探している。うちの駐車場が手頃だけど、よそに貸してあるから使えない。いえ、使えます。
芋の畑を整地して資材置場にすれば、駐車場が使えます。
この話をもっていくと、畑の人は超特急で芋を収穫してくれました。翌日資材置場ができました。
その日、私は東京に戻りました。次の日から仕事に戻りました。まだ続けていますよ、その仕事。
この一連のばたばたで、私は一切お金を使っていません。誰も使っていません。
牽引は工事監督のご厚意で、資材置場の整地は「ついで」で、やっていただきました。工事車両を置くのに使う場所を少し広げて、「資材置場」も使ってもらったんです。
廃車の人には「当面」無料で、資材置場を使ってもらいます。
ディーラーの人にも「当面」無料で、駐車場を使ってもらいます。
「当面」というのは、私がここに移り住むまでです。いつになるんでしょうね?
廃車の人には、できたばかりの資材置場の整備を頼みました。排水がうまくいかないとか、いろいろあるんです。
ディーラーの人には駐車場の管理を頼みました。以前の借り手が又貸ししていて、又借りしていた人が車を置きにきたりするので、そのへんよろしくです。
こんなふうに、あれやこれやがうまく運んだのは、あのとき仕事に嫌気がさしたからなので、ときどき仕事に嫌気がさすのはよいことですね。
ところで、93番地の借り手の人は、もう1台車を持っていました。まだ、その辺に置いてあります。
牽引のとき「ドアが開かなくて」残されたようです。その後は「バッテリーが上がってて」、バッテリーを交換した後も「エンジンがかからなくて」、動けずにいます。
「ちゃんと動く車です」って、言ってたじゃないですか。
でも、私は気にしていません。いずれどかしてもらいますけどね。
ここは48番地です。貸した土地ではないので、借地借家法の適用はありません。