2匹の犬

子犬は犬小屋で眠ります。

私が作った犬小屋を気に入ってくれました。

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夜、お風呂に入るとき、子犬を犬小屋に入れます。

扉を閉めて「おやすみ」を言います。

お風呂からあがって、私はひとりでベッドに入ります。

「おやすみ」

子犬は静かに眠っています。

 

朝は子犬に起こされます。

犬小屋の中から、小鳥のような声で鳴くのです。

「出して」

決まって6時半。

携帯のアラームのセット時間です。

今日は仕事がないので、のんびり寝ているつもりでした。

携帯アラームは無視して、ぐうたら寝ているつもりでした。

けど、子犬アラームが鳴るのです。

「出して」

しかたがない。

ふとんをはぐって、よろよろと起きあがったところで、

するり、

体の脇をすり抜けていくものがありました。

とん、

床に下りて、犬小屋に向かっていきました。

 

老犬です。

 

老犬は私のベッドで寝ます。

この犬は生まれてすぐに母親を亡くしたのでした。

手のひらに載る赤ちゃんの頃に、きょうだい犬と一緒に引き取って、人工哺乳で育てたのでした。

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私と、当時小学生だった子どもで育てたのでした。

母犬のいない子犬を育てるのは難しく、

たくさんいたきょうだい犬のほとんどが育ちませんでした。

私の手元でも、早くに死んでしまった子がいました。

この犬だけが生き延びて、ずっと側にいてくれたのでした。

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たいそう甘やかして育てたので、たいそう甘えん坊になりました。

夜は私のベッドで寝ます。

 

小さい頃はサークルを使っていました。電気ケーブルを齧ったりしたからです。

それが、いつ頃からか、その辺に放しておいても大丈夫になって、

それで、放しておいたら、人の布団で寝る犬になりました。

たいそう甘えん坊な犬なのです。

 

聞き分けのいい犬なので、ちゃんと留守番はします。

でも、留守番は嫌いなので、人が帰るのを待っています。

すごく待っています。

人が帰ると、「お帰りお帰りお帰り」、玄関ドアに体当たりして、飛びつく犬でした。

ひとつ前の秋までは。

次の季節には、ドアの前に座って行儀よく迎えてくれるようになりました。

少し前から、リビングのソファに寝そべったまま、「お帰りお帰りお帰り」、しっぽを振る犬になりました。

 

人と犬は、同じ時間を、同じようには生きられない。

小学生だった子どもが大学生になる間に、赤ちゃん犬は老犬になりました。

先々月、死んでしまいました。

 

でも、今朝、いたのです。私のベッドに。

私の横で眠っていました。

子犬が「出して」、小鳥のように鳴きだすと、

するり、

ふとんを抜け出して、

とん、

床に下り、

犬小屋に向かっていきました。

「小さい子が鳴いてるよ。見に行ってあげなくちゃ」

 

 

ねえ、小さい子、

この家には優しい犬がいたんだよ。

優しくて、甘えん坊な犬、

甘えん坊だけど、我慢強い犬、

この家が大好きで、この山が大好きな犬でした。

 

ねえ、小さい子、

あなたはどんな犬になるでしょう?