花壇通信(秋号)
その人は軽トールワゴンを降り立つと、ニトリルグローブをはめ、幾つもの箱と鉢と袋を下ろし、言いました。
「始めましょう」
そして、1時間かそこらで私の庭をこんなふうにしてしまいました。
Kさん、美術館で一緒に働いている人です。
エキスパートな園芸家です。
ことの始まりは5月。
職場の控室、休憩時間。3人でお茶を飲んでいたときのこと。
Wさんが言いました。
「ソーメンカボチャ食べたい」
ソーメンカボチャ?何それおいしいの?
おいしいそうです。でも、その辺には売ってないそうです。
するとKさんが言いました。
「苗買って植えたらいいです。カボチャは勝手に育ちます」
苗は売っているそうです。でも、
Wさん「植える場所がない」
ということで、
数日後、
二人ここに来て、ソーメンカボチャを植えていきました。
その後、ソーメンカボチャはすくすく育ち、
なにやら不思議な食べ物になりました。
は、いいとして。
Kさんが私に文句を言うのです。
「庭をこんなにしておくのはよくない」
そう、この人、エキスパートな園芸家なのでした。
私の2本のリンゴの木も、
「こんなにしておいてはだめです」叱られました。
枝を誘引しなくちゃいけなくて、堆肥を入れなくちゃいけないそうです。
そして、
「庭に花を植えましょう」
力強くご提案。
私は即座に答えました。
「嫌です」
これまでいろいろやってきたのです。
その結果がこれなんです。
全部が無駄だったとは言いません。
この日もダッチアイリスが咲いています。10本ほど。
植えたのは100球です。咲いたのが10球。
そして、スズランとスノードロップとクリスマスローズとチューリップとシャクヤクとムスカリは消えました。
なので私、花はもういいや、って思うの。
という話をしてるのに、
Kさん「この辺にジキタリスを植えましょう」
Wさん「ローズマリーはここね」
って、おい。
私だって頑張ったんです。その結果がこれなんです。
という話をしてるんです。もしもし?
するとKさんが言いました。
「それはやり方が悪かったんです」
きっぱり。
ああ、そうですか。では、やり給え。好きなようにして、どうぞ。
ということが5月にあって、
それから随分経つので、油断してたんですけどね。
Kさん、先日見えました。
ジキタリスとクリーピングタイムとエリゲロンとシレネナッキーホワイトとホタルブクロとキキョウと三尺バーベナとリナリアとスイセンとミヤコワスレを植えて行きました。
私これ、すごい楽しみにしています。