ただいまの木

その木はずっとそこにありました。

それが何の木か、私は判りませんでした。

まあ、以前はこんなでしたから、

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判りようがありません。

 

この蔓は払いました。

蔓に木を枯らされるのが嫌だったの。

蔓に覆われた木は弱ります。放っておくと枯れます。

そうして枯れた木が、山には何本もあります。

なので、がんばって払いました。

 

一昨年、私は家を建てました。

その木のすぐ側に。

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木は生き延びていました。元気に葉を茂らせていました。

私は気に留めませんでした。

山にはたくさん木があるのです。

それが、5月、いっせいに姿を変えるのです。

この木があの時のあの木だなんて、気づきませんでした。

 

去年、花が咲きました。

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びっくりです。

花の咲く木だったんです。

しかも、みごとな。

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なんて、みごとな。

 

こんな木が庭にあったら素敵です。

と、夢に見るような木です。

が、ありました。

庭じゃなくて、家の裏の角だけど。

 

これは何年かぶりの花です。

そして、たぶん何年か分の花。

を、いっせいに咲かせて見せてくれました。

ウワミズザクラ

名前、やっと判りました。

 

この木がいいと思いました。

この場所がいいと思いました。

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私の家には道が2本あります。

表から上って来るのと、裏から上って来るの。

どっちで来ても、正面にあるのがこの木です。

この家の番犬を自認していたらしい犬には、良い場所だと思うのです。

この家を訪れる誰にでも、しっぽを振ってしまう犬だったけど。

 

そして、

私はこの木に「ただいま」を言います。

仕事から戻ると毎日。

「ただいま」

犬がいちばん喜んだ言葉です。

その日、私は

急に起こした貧血でした。

いえ、急ではなかったのかもしれません。

見逃していたのかもしれません。

私も、獣医師も。

 

2日前に診察を受けていました。

何度か続けて吐いたので、かかりつけの動物病院に行きました。

点滴をして、絶食をして、快方に向かっているようにみえました。

貧血の兆候はありませんでした。

いえ、見逃していたのでしょう。

 

その日食べたのは、すりおろしたリンゴとヨーグルト、新鮮なささみをレンジしたの。

絶食明けのご褒美を、犬は喜んで食べました。

吐かずにちゃんと食べました。

 

その日は私の休日で、久しぶりに穏やかな天気で、短い散歩もしました。

雪が融けた土の上を歩いて、排泄をしました。

ちゃんと形のある便と、無色のきれいな尿。

快方に向かっているようにみえたのです。

 

「おいで」

呼ぶと、いつものように駆け寄りました。

いえ、数歩走って、うずくまってしまいました。

その時、私は判っていなかったのです。

もう走る力もないのに、駆け寄ろうとしたのです。

いつものように。

 

 

午後の診察開始を待って駆け込んだ病院で、

「貧血です」

言われました。

「輸血のできる病院を探してください」

探す?

 

輸血

犬にも輸血治療は行われます。外科手術、外傷、貧血の治療。

ですが、簡単ではありません。

その時の私は知りませんでした。簡単ではないのです。

cvdd.rakuno.ac.jp

つまり、

犬の輸血用血液は薬機法上の「未承認薬」であって、市場で流通させることができない。

輸血を実施したい動物病院は、自分のところで血液を賄う必要がある。

そのために、病院は供血犬を飼育し、または、篤志家の飼い主に献血を依頼する。

ということです。

血液を賄う方法、実はもう一つあります。

「治療を受ける側が供血犬を手配する」

Twitterで#供血犬で多くの呼び掛けがされています。

 

ということも、私は知りませんでした。

 

探す

輸血のできる病院を探します。

Googleに聞いても教えてもらえません。市の保健センターにも情報はありません。

獣医師会の名簿を見ながら、一軒ずつ電話を掛けました。

ようやくみつけました。

ぐったりした犬を車に乗せ、ナビに病院名を叩き込みます。

そして駆け込んだ病院は「治療を受ける側が供血犬を手配する」システムでした。

 

思いつく限りのあちこちに電話を掛けました。

「どうすればいい?今からうちの子連れて行けばいい?」

言ってくれる人がいました。

でも、私は判っていなかったのです。

体重8㎏の柴犬から200ccの供血を受けることはできません。

供血を頼めるのは「若くて健康な大きな犬」です。

もちろん、血液型の問題もあります。犬の血液にも型があります。

でも、飼い犬の血液型を知っている人、どれだけいます?私も知りません。

 

泣きながらあちこちに電話をしている私に、診察を待っている猫の飼い主が声を掛けてきました。

「どんな犬を探せばいいの?」

その人はスマートフォンを持って立ち上がり、電話を掛けはじめました。

私も電話を掛け続けました。

そういえば、知り合いに若いラブラドールの飼い主がいました。を思い出しました。

でも、私は判っていなかったのです。

もうひとつ、問題がありました。

 

時間

輸血には時間がかかるということです。

200ccの血液をいっきに輸血することはできません。

ショックを起こさないよう、少しずつ、何時間もかけて入れていかなくてはなりません。

その間、犬の容体を見守るスタッフがついていなくていけません。

この病院の診療時間はまもなく終了します。

 

血液検査の結果が出ました。深刻な貧血で、やはり輸血が必要と。

貧血の原因は判りません。X線や内視鏡の検査をする余裕がないからです。

疑われるのは、消化器官の腫瘍か潰瘍。あるいは、免疫介在性の貧血。

免疫介在性?

「それって急になるものですか?」

「なります」

 

原因が何でも、命をとりとめるには「とりあえず」輸血が必要です。

が、

「今から供血犬を手配しても、当院での処置は明日になります」

まさか、それまでは保たないと?

「強い子です」

静かに、獣医師が言いました。

「この数値の状態で、よく頑張っています」

 

では、教えてください。今から処置を受けられる病院を。

 

そのとき私は知りませんでした。

動物の夜間緊急高度医療を提供できる施設がどこにあるのか。

市内にはありません。県内にもありません。

全国にもあまりたくさんはありません。

こうして今ネットで調べても、そう多くはみつかりません。

 

東京の家族に連絡しました。

「連れて来て」

頼まれました。

「受け入れ先は必ずみつけるから」

 

その夜、私は新幹線に乗りました。

行先は東京。

東京には夜間緊急高度医療を提供する施設がいくつかあります。

その一つが受け入れを約束してくれました。

 

たどり着けませんでした。

犬は新幹線の中で息をひきとりました。

埋葬

ざっく、ざっく、ざっく、

穴を掘ります。

凍った地面を掘るのは大変かと思ったけど、それほどではありません。

ざっく、ざっく、

ちゃんと掘れました。

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犬を埋めます。

ここに埋めます。

ウワミズザクラの木の下に。

 

犬を飼っている人はみんな言います。

「うちの犬は特別」

私も言います。

「うちの犬は特別」 

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 特別な犬でした。

逝ってしまいました。



キツネ村

ということで、キツネ村

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すごい、怖かった。

えと、高速道路が、です。

 

最近の私、丁寧な運転を心がけています。

Yahoo!カーナビのおまけに「運転力診断」というのがあって、

私はこれが楽しみなのだけど、

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よい運転をするとほめてくれます。嬉しい。

 

 

私、運転が上手になりたいの。

あちこち行きたい所があるんです。この辺のあちこち。

www.ohmsha.co.jp

いえ、100か所とか欲張りません。20か所くらい。

それも、あまり真剣に行きたがってるわけじゃなく、

行けたらいいなー、くらいの気持ち。

なんだけど。

ある日、気がついちゃったんです。

あまり真剣じゃないのは、どうせ行けないと思ってるから、じゃない?

ほら、イソップ寓話のすっぱい葡萄。

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なので、運転が上手になりたいの。

行きたいところに、行けるようになったらいいな。

 

 

で、高速道路

もちろん1人じゃ走れません。

冬休みに遊びに来た大学生に、うっかり「私の運転をみて」とか言っちゃったんです。

「どこに行きたい?」「任せる」

言っちゃったんです。

 

家族でいちばん最後に免許を取ったのは私で、私は子どもに運転の指導を受けたのでした。

この大学生、私と一緒に教習所に通っていたのに、私の半分の時間で卒業して、私が卒業した時には5000Kmを走っていました。

が、隣に座って、

「もっと踏んで!」「もっと!」

って叫ぶの。怖い

 

 

さて、キツネ村

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キツネの声を聞いてきました。

山で聞こえるあの声と似てるかな?

aldertree.hatenablog.com

とか思ったんだけど。

結論

よく判りません。

 

キツネ村のキツネはかわいい声を聞かせてくれました。

なんかね、みんなかわいいの。

でも、ほら、イヌだって、ネコだって、いろんな声を出すでしょ?

だから判りません。

正体不明は正体不明のまま。

とにかく、高速道路が怖かった

 

正体不明

山に何かがいるのだけど、それが何かがわかりません。

ときおり声が聞こえます。

錆びたような、軋んだような、大きな声。

が、藪の中から。

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聞こえるのは夜です。

怯えたような、怒ったような、威嚇するような声。

正体は判りません。

 

この山に危険な生き物がいないことは判っています。

クマとかイノシシとかカモシカとかの大型獣はいなくて、シカもサルもいません。

時折タヌキが歩いています。のそのそと、落ち着き払って。

ひょっとしたらキツネもいるかもしれません。

「見た」という人がいるのです。

それが見間違いじゃなく、本当だったら素敵。

ところで、キツネってどんな声ですか?

フクロウの巣箱設置完了

立木に竹を立てかけて、臨時の構造物とします。

そこに滑車を取り付けて、ロープを掛けて引き上げます。

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なんて仕組み、私が思いつくわけないですね。

私は言われたとおり、あっちを押さえたりこっちを引っ張ったりしただけです。

 

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高所作業のための足場は、予め組んでおきました。

いえ、私が、ではなく。

 

フクロウの巣箱設置完了。

それは素敵な才能

「医者にあと10年って言われたの」

その人は言うのです。

「それから5年が経ったから」

ストーブに薪をくべながら。

 

人生を楽しむ才能を持つ人です。

と、感じたことを伝えた時のレスポンス。

「だから、あと5年」 

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「楽しいねー」その人。

「楽しいねー」私。

2人で1本ワインを空けました。

酔っ払いです。

 

「フクロウ来るかなー?」

「来るかなー?」

「来るといいねー」

「いいねー」

 

酔っ払いの傍らで薪を割る人がいます。

「この人ぜんぜん飲めないの。つまんないの」

仲の良いご夫婦です。

 

冬の日はたちまち暮れて。

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「きれいだねー」

「楽しいねー」

 

後片付けはしっかりします。

火の始末。雨じまい。

酔っぱらっても、ちゃんとね。

「また来るよ。お酒持ってくるよ」

私、普段は飲みません。

が、実は飲めます。けっこう飲めます。

ということがばれてしまって。

「また来るよ」

 

巣箱の設置にはあと1日。

と、ワインがあと1本。

でしょうか?