勤務を要しない日(2日目)
火曜日、午前10時。48番地。
設備業者さんが来てくれました。そしてもうお一人、T工業さん。K町の造成をされる方です。
私が行った時、すでにお二人はみえていて、あたりをご覧になっていました。
「ここに家を建てるなら、この勾配を均した方がいい」
「ここは少し切土して」
「砂利を敷いて鎮圧して」
お二人で何やら評定されています。
せっかくですから、埋蔵している丸太の処理方法をお尋ねしましょう。
「これ、どうしたらいいでしょう?」
「掘り出して、運び出して、廃棄物として処理する」
のが一般的な方法ですが。
「掘り出して、薪のサイズに切ってもらうのは?」
昨日思いついたことを聞いてみます。捨てるのと、使うために加工するのと、どちらがお安くできますか?
「薪に切る方が安い」
ということで、工務店さんに相談する案件が一つ増えました。薪ストーブの設置、ちょっとめんどくさいんですよ。
「でもこれじゃ、どこに何が埋まってるか判んないな」と、設備業者さん。
「元の土地の形状も判りませんね」と、T工業さん。
「やっぱり、いちど払った方がいいな」と、設備業者さん。
「とりあえず、刈払機とチェーンソー持ってきますか」と、T工業さん。
お二人とも楽しそうですが。
「えっと、、、費用は?」
「やってみないと判らない」
って、怖いです。
火曜日、午前11時。115番地。
8月に草を刈りました。でも、また伸びています。
まっすぐに伸びたイネ科の草がいちめんに。金色に光って、風の形を刻んでいます。この景色は嫌いじゃないけど。
気温が下がったらもう一度刈ります。今度は短く刈って、地表面に敷き詰めます。
という計画を立てていたのですが。
「土、いつ来るんですか?」
「早ければ来週」
は、忙しいですね。
青草を埋め込むと真菌ピシウムという植物病原菌が増殖します。分解発酵時に熱を出し、脱窒素作用も起こします。そうです。
これは避けたほうがいいですね。
「私が草を刈る時間がありますか?」
「作業員を手配しましょう。明日と明後日、2日で刈れます」
「刈払機で?」
「刈払機、3台で」
は、だめです。
長いまま刈った草はトラクターのブレードに絡むんです。長い草を扱えるトラクターもあるけど、簡単には手配できません。
8月に刈った草、ようやく分解が進んで鋤き込める感じになったけど、これから刈る草は短く刈ります。
という計画を立てていたんです。
とりあえず、土は一箇所に積むことにして、必要な場所だけ刈ってもらうことにします。
そして私は、次に何をするかを考えます。
火曜日、午前11時半。
お二人が引き取られた後、Y建設さんに電話しました。115番地の畑の面倒をみてもらっている「土木業者さん」です。
この方、実は橋をつくったり、道路をつくったりの「建設業者」さんでした。
私の用語の使い分けがいいかげんで、「土木工事をお願いしたから土木業者さん」、にしちゃってましたが、登場人物が増えてややこしくなってきたので、今から呼び方を改めます。Y建設のYさん。
は、ご不在でした。オフィスの女性に伝言を頼んで切ります。
火曜日、午後5時。
Y建設さんから電話がありました。
「ハンマーナイフモアを貸してください」
というのが、私の用件。
ハンマーナイフモア。草を刈りながら細断する機械です。
見たことも、触ったこともありません。その辺の農機具店にはありません。近所の農家にもありません。
だけど、使ってみたいんです。だって、草を刈りながら細断してくれるんですよ。
という話を、以前しました。48番地で蔓と闘っている時に。そしたら、
「うちにありますよ」
貸していただくことになりました。
「10月になったら、もう一度草を刈ってください。気温が下がれば雑草は生えなくなります」
親切なアドバイスをいただきました。
ということで、
「ハンマーナイフモアを貸してください」
気温が下がったらもう一度草を刈る。それで、春までは放っておけるので、その間に何を植えるか考える。
というのが、現在の私の営農計画。「放っておく」「考える」、計画倒れになる心配のない、実に見事な計画です。
「ちょうどよかった。明日なら少し時間があります」
持ってきてくださるそうです。115番地に、ハンマーナイフモアを。
ああ、楽しみ。
勤務を要しない日(1日目)
5日、東京に行っていました。
オフィスの仕事は8連休です。
私は非常勤で働いているので、1ヶ月の勤務時間に制限があって、毎月何日か「勤務を要しない日」というのがあります。
先の月曜、火曜、水曜がその「勤務を要しない日」。
で、8連休でした。
月曜日、午前8時
O建設さんから電話がありました。
「近くで工事をするので、車両を置かせてもらえますか?」
この、フェンスが回っている所を整地して、周りと同じ高さにするそうです。
ここは以前、Sさんが所有されていた土地です。
隣がうちの雑種地で、測量の立会をお願いしていたのですが、私がもたもたしている間にSさんが倒れて入院してしまいました。
その後、奥様も倒れて入院してしまいました。
遠方にお住まいの息子さんに連絡を取って、立会をお願いしました。ほんの数分の立会のために、はるばるお運びいただかなくてはいけない、法律のばかやろーな話です。
が、その後、私がもたもたしている間に売却されて、O建設さんの所有になりました。
境界確定の測量はO建設さんが、そして立会を私が、することになりました。
という土地の、造成工事を、
「今日から始めます」
そうです。
駐車場、どうぞ使ってください。ごはん食べたら私も行きます。蔓を引っ張りに。
月曜日、午前10時
蔓を引っ張っているところに、F建設さんから電話がありました。
「今から現地に行きます」
F建設さんには去年、この雑種地の整地をしていただきました。
廃車の撤去もしていただいて、それはそれはお世話になりました。
10日ほど前、資材置場に水たまりができたことを相談したら、
「時間があるときに見に行きます」
と言ってくださったのですが、それが「今から」ということで。
姪の言うこときいて、ポケットに携帯入れておいてよかったね。
水たまり。
この水を池に排出する許可はもらっています。
というか、「自然水を池に流すのに許可はいりません。勝手にやってください」ということで。
勝手にやる方法は2つあります。
①窪んだ部分を整地して、勾配をつくって排水する
これ、ちょっと費用がかかります。
竹の根元が高くなっているので、勾配をつくるには相当量の土が必要で、大型車両を手配しなくてはいけません。
②地下にパイプを埋めて池と繋ぐ
これで水は溜まらなくなります。地面の凹凸は残るので、土地の利用に支障が出ます。
でも、時間もコストも僅かです。
この工事、去年の整地のアフターメンテナンスということで、私の費用負担はありません。それだけに、コストのかかる方法はお願いしづらいんです。もともと、予定外の整地をご厚意でやっていただいたものですし。
でも、
土、ありますね、そこに。
50mほど先でO建設さんが工事をしてますよ。
ちょっと聞いてみましょう。
「O建設さん、ここの土、削った後どうするんですか?」
「しかるべき場所に運んで、産業廃棄物として処理します」
では、それ、
「私にください」
土を運ぶには費用がかかります。捨てるにも費用がかかります。
なので、話はあっさり。
こういうゲーム、好きです。あれやこれやがうまく運んで、みんなが得をするゲーム。
主に私が得をするゲーム。おもしろいです。
で、蔓を1時間ほど引っ張って帰宅しました。
スーツケースの荷解きはしてないし。冷蔵庫は空っぽだし。洗濯機はいっぱいだし。
山でおもしろいことばかりしているわけにもいきません。
月曜日、午後5時
設備業者さんから電話がありました。
「K町の工事が始まったよ」
K町どこ?知りません。
「畑の土がもらえるよ」
ああ、そう、その工事。
1ヶ月ほど前、ブルーベリーの用土に苦労していた時、設備業者さんとお会いしました。そのとき、畑をつぶして家を建てる工事があるので、土がもらえるかもしれない、というお話が。
その「かもしれない」が「もらえる」になったんですね。工事現場がK町なんですね。
翌日詳細を伺うことにしました。
これは、楽しみ。
6日ぶりの
山です。
昨夜東京から戻りました。
義母は持ち直しました。
医師に「覚悟してください」と言われ、覚悟していた夫は、静かにとても頑張りました。
お疲れさま、よかったね。
ということで、池に来ています。
奥の、竹藪の向こうが池です。手前は資材置場。
なんですが、排水がうまく行きません。ついにウシガエルが棲みつきました。
ここをなんとかしなくては。
と、言いつつ、鎌を手に取ります。
蔓を見ると払いたくなります。
木がこんなふうに痛めつけられるには、何か月もかかります。
払うのは3分です。
1本の枝に5種類の葉が繁っていました。
がんじがらめに絡まって、わけが分からなくなっているもの、
しがらみ、
を断つのは、端的に爽快な作業です。
この灌木の、種類とか名前とか判りません。
ここに灌木がある景色を、これまで気にとめたことはありません。
が、今日、通りすがりに目をとめて、3分で蔓を払ったので、この灌木は私の既知になりました。
そんなふうに、少しづつ、私の既知が増えていきます。
1時間分の作業を車に載せました。
今日はこのへんで帰ります。
帰京
9月から測量分筆登記の手続きに入りましたが、実測はこれからです。
工務店と打ち合わせをしましたが、見積はまだ届きません。
けっこうのんびり。
測量事務所にも、工務店にも、無理な仕事をお願いしているので、矢の催促とかはできません。
まあ、じっくりやっていただきましょう。農地転用には時間がかかります。
それに、私の都合もあります。
東京の義母の具合が良くありません。
私にできることは限られますが、山で柴刈りをしている場合じゃないので、スーツケースに荷物を詰めました。
今日、帰京します。半年ぶりの東京です。
少し妙な気分です。
こっちに来て半年、一度も東京に帰る機会をつくりませんでした。
どうしてかと考えています。
毎朝、犬を連れてその辺を歩きながら、すごく気持ちのいい風に吹かれながら、ここは自分の場所じゃないと感じています。
役所とホームセンターには詳しくなったけど、美術館とかプラネタリウムとか、この町に住んだら行ってみたいと考えていたところ、行っていません。
この町で、私はあまり普通の生活をしていないみたいです。
近くに素敵な美術館があります。できたばかりの頃、わざわざ東京から見に行きました。とても素敵な美術館です。毎日近くを通るんですけどね。
私の山も、「日が暮れるまではいられる場所」です。
棘にまみれた服を脱いでシャワーを浴びるには、借りた家に帰らなくてはいけません。
刈払機とかレーキとか、運ぶのがめんどうなものは雑貨屋さんの物置に置かせてもらっています。いつでも自由に使える物置とか、ありがたくて、これはちょっと「自分の場所」っぽい感じ。
って、人様の物置でした。すみません。
私の山にはまだ家がなく、借りた家はダンボールを積んだままの仮住まいで、いつでも帰れる東京の家には帰っていない。
私の場所って、どこなんでしょう?
もしかて、そういうの、なくてもけっこう平気かも?
なんて感じてしまって、少し妙な気分です。
久しぶりに電車に乗るので、本を4冊持ちました。
若い頃、私はたくさんの本を読んだのですが、地方をあちこち回る仕事をしていて、移動時間がたっぷりあったからです。モバイルネットワークとかなかった時代です。
その中で、いつか読み返したいと思うもの、何冊か手元に置いていますが、ダンボールに詰めたままでした。
を引っ張り出して、スーツケースに入れました。
犬はとっとと自分でバッグに入ります。
では、行ってきます。
用地奪還の闘い(来季に向けての決意を固めて、今季は終了)
吊橋の建設では、最初に両岸を結ぶパイロットロープを張り渡します。
それを手がかりにメインケーブルを張り、ハンガーロープを吊るし、橋桁を架設します。
この1本の蔓が足場になって、入り組んだ構造物が構築されるわけです。
いや、それ、やめて。
地目宅地の93番地にはケヤキとかモミジとかキンモクセイとかクリとかクルミとかがありますが、
地目山林の48番地にはこの木しかありません。ミズキとキリがあるのは隣の筆です。
なので、この木が自動的に48番地のシンボルツリーです。
年齢不明。性別オス。性格は、ちょっと傾いています。
この木に、いっぺん触ってみたいと思っていました。
そう、触ったことがありません。
これは4月の写真ですが。
容易に近づけそうに見えますが。
この辺の地質構造はこんなですから。
というのは、実は最近判ったことで、
これまではね、近づくと転ぶから近づかないでいただけです。
枯れ草の下に何があるかとか、
ちょっと判りません。
蔓の、スギ林への侵攻を阻止するために、ゲリラ戦を数日闘いました。消耗の大きい闘いでした。
高いところにかかった蔓を引っ張ると、棘が降ってきます。身につけたもの全部、棘にまみれます。ナイロンウエアの上下(暑い)とか貫いて、アンダーウエアに刺さります。グラスファイバーみたいな細い棘が機能充分に痛いです。洗濯しても、ガムテープでぺりぺりしても取りきれないので、二度と着れないじゃないですか。
そのうえ、手鎌2本を失いました。私がぼんやりしていたからです。
そして、丸太をたくさん発掘しました。
発掘個所はスギ林の縁ですが、たぶん、イチョウの周りもこんなです。
「昔はあそこにもたくさん木があった」
と、キュウリ畑の方が言っていました。
「いつ、誰が切ったんだろう?」
それが私には判りません。土地の所有者に聞いても判りません。
まあ、倒木の5本や10本、この辺ではあまり気にしません。転がしておけば土に還ります。
冬に掘り出した切株も、
じき、土に還ります。
この辺では昔からそうしてきたんです。それですんでいたんです。
侵略的外来種、の中の特定外来生物、の中の緊急対策外来種、がはびこる以前なら。
シンボルツリーに伸びたパイロットロープを切断する
ために、
この地質構造に挑みます。装備は手鋸と手鎌(3本め)です。
でもって、今季の闘いはお終い。
ウリ、飽きました。
測量分筆登記と農地転用手続きが終わったら、ここには重機が入ります。その時、丸太も撤去してもらいます。
だって、私一人じゃ動かせませんから。太いのは一抱えもあるんです。
来年はアレチウリが実をつける前に引っ張ります。
その辺に妙な構造物があったら、夏になる前に始末します。
という決意を固めて、
はい、タッチ。
用地奪還の闘い(そろそろ終わりたい)
4月に撮った写真です。
同じ場所の9月。
何がどうなっているかというと、
アレチウリの下にフジとクズとアケビとアオツヅラフジとノイバラがあって、
これを払っていくとミズキが2本ありました。ミズキの手前に朽ちたサクラがありました。ミズキは生きていました。強い木です。
4月、手鎌一つ持たずにこの場所に来て、のんきに写真を撮っていた自分に教えてあげたいです。
「さっさとその枯れた蔓を始末しないと、酷い目に遭うから」
今、酷い目に遭っています。
なぜか、昔旅行したカンボジアの遺跡を思い出しています。
こういうの。
さて、
蔓を払って、ここまで来ました。
林の中。は静かです。
初秋、昼下がりの里山。もとより、虫の声くらいしか聞こえません。
これは、だから、耳で感じる静寂ではなく。
さっき払った蔓、カーテンのように垂れ下がる蔓の外には、夏草の凄まじい生命力が溢れています。いや、もう、かんべんってくらい。
それが、林の中には及びません。
ここにいる木は静かです。草も静かです。
アオキがひっそりと実を結んでいます。
たぶん何年も前から、今と大して変わらない姿でここにあったんです。
ナンテンも、ヤツデも、きっと。
48番地は半年前に重機を入れました。115番地は5月の終わりに。
どちらも、ひと夏ですっかり夏草に覆われました。
林の中は変わりません。
まるで、時間の流れる速さが違っているようです。
夏草と闘って2週間が過ぎました。秋の風が吹いてきました。
そろそろこの闘いも終わりです。
と思ったら、
こんなものをみつけてしまいました。
ああ、まだ終われない。
用地奪還の闘い(続き)
私の刈払機、タンクいっぱいの燃料で1時間働きます(ベストエフォート)。
私がへとへとになるまで働きます。
先日の写真の「1m以上ある」ドームを攻略したところです。
へとへとになって、機械を置いて、よっこいしょ、立ち上がったところで、
おや、誰か来ますよ。
「いいエンジンだね」
土木業者さんです。
この方に先日連絡をしました。「115番地に種を蒔きます。力を貸してください」
土をどう作るか、何の種を蒔くか、を相談しています。
こういうの、ふつう土木業者さんの仕事じゃありません。でも、農家の仕事に詳しい方なので、力を貸していただいています。
でもここ、115番地からは離れてますよ。バス停いっこ分くらい離れてます。
刈払機、けっこうな音がします。こっそり作業とかできません。
115番地で振り回していたら、ギャラリーがつきました。道路に停まって、じっと見ている車が数台。
いや、草刈りとか、珍しくないでしょう?パソコンより刈払機の普及台数の方が多い地域ですよ?
まあ、せっかくのギャラリーです。かっこよく刈ってみようとか、思いました。
姪(が時々手伝ってくれます)は知らない男性に声を掛けられたそうです。「いつもの人と違うね」
いつもの人には声を掛けないで、若い娘にだけ声を掛けた人、誰ですか?
畑の作業、成果が丸見えです。
農業委員の人も、農業委員会事務局の人も、私の畑の様子をご存知でした。
だって、そこにあるの、見えますもんね。
ときどき会う人に「よくがんばるね」ほめてもらっちゃったりします。
素直に嬉しいけど。自分のためにやってることですよ。
48番地は人目に立たない場所ですが、音のする機械を振り回していたら、私の居場所は筒抜けです。
この日は他にも来訪者がありました。姪。
「なんべん電話しても通じない!」ので、来たと。
ああ、そうね。電話機は車の中でした。
「服のポケットに入れとけば?」
いい考え。でも、それを忘れるんですよ、あなたの叔母は。
まあ、せっかく来たんだし、一杯やっていきなさい。混合燃料を、タンクに一杯。
さて、アレチウリ。
開花しました。結実しました。
グラスファイバーみたいな棘が生えた実です。痛いったら。
これが1株に数百~数万つくんだそうです。まじですか?
手前は先日救出したキリですが。
背後のスギに蔓が回ったら、ひどくやっかいなことになる予感。
これは絶対、食い止めないと。