妖精のリスト
昼休み、家に帰ったら庭に花が植えられていました。
昼休みの過ごし方
私は美術館で働いています。
昼休みは家に帰ります。
家がすごく近いからで、家が好きだからです。
ごはんを食べて、お茶を飲んで、ちょっとその辺を歩いたりします。
昨日はこの場所を、雉の親子が歩いていて、
そういうのを見るのが好きなのです。
それから職場に戻ります。
職場に戻って、留守中に花が植えられていた話をしたら、
「なんなのその庭?妖精さんが来るの?」
驚かれました。
妖精さんは軽トールワゴンで来ます。
軽トールワゴンは荷物がいっぱい積めるので、バケツだのスコップだの積んで来ます。
黄昏の頃に現われることが多いのだけど、白昼出現することもあります。
あとに何か置いてあると、
「ああ、来たな」判ります。
先日はなぜか美術館で遭遇しました。
私と同じ制服を着て、チケットを切っていました。
「お疲れさまです」
持ち場交代ですれ違うとき、何かの紙を渡されました。
何かいっぱい書いてあるけど、
これ、私の庭の花のリストだよね?
3:1
実はこのとき、私のポケットにはこんなものが入っていました。
私が作ったリスト。
思い出せる限りを書き出しました。
それが、もらったリストの3分の1。
私ってば、そこにあるものの3分の1しか認識していなかったのね。
知ってるけど知らないもの
この花、子どもの頃から、夏の風景にありました。
麦わら帽子とか蚊取り線香とかと並んで、夏の記憶の端にあります。
でも、思い起こすことはありませんでした。
名前を知らなかったからだと思います。
花の名前
ムラサキツユクサの名前を聞くと、
幼稚園の頃のラジオ体操を思い出します。
サルビアの名前を聞けば、
小学校の夏休み、プールバッグを下げて歩いた道、
くっきりと影の落ちる土の道が思い出されます。
カラスウリの花は、たった一度見ただけです。
そろばん教室の帰りだったと思います。
夕闇に浮かび上がる、繊細なレースのような花。
が、今も、名前とともに魔法のように目に浮かぶのです。
名前を知らないもの
を、忘れるのはたやすい。思い出すのは難しい。
名前は、そう、水を汲むコップみたいです。
捉えどころのないものに形を与え、意識の中に引き寄せます。
スイセンノウ
この夏、私の庭に咲きました。
花の名前はスイセンノウ(酔仙翁)。
そういえば、あちこちで見かける花ですね。
仕事の行き帰りにもありました。
名前を知ると、それに引っ張られて、情景が思い出されるのだもの、不思議。
ということで、
私は今、妖精リストの解析に取り組んでいます。
実はちょっと面倒な作業です。
とか、
とか、
覚えにくいのが多いのです。
覚えにくいのを覚えるために、名札を立ててみたりもしたけど、
無駄になってしまったし。
今回植えられていた花も、絶滅爬虫類みたいな覚えにくい名前。
ちなみに、和名はペラペラヨメナです。
嘘じゃないって。